降るかもと思って歩いてたらやっぱり降ってきた。雨宿り中。
振り返ると、そこに少女が立っていた。
「私のポールを貸してあげる」
『えっ、ありがとう。でもこういうとき、普通はカサでしょ』
「そうね。でも雨はいつか止むでしょ。その時、このポールがきっと役に立つわ」
『いやいや、俺はまだそんな歳じゃないし』
「みんなそう言うわ。でも一度でいいから使ってみて欲しいの。
あなたは山に登るでしょ。登った人しか見ることのできない素晴らしい景色をあなたは知っているはず。それと同じよ。さあ、これを使って歩いてみて」
雨も小降りになってきたし、なぜかその時はやってみようという気持ちになった。
ポールを使って教えられるがままに歩いてみると、初めて体験する感覚に驚いた。
『スゴイね、これ。体がグングンと前に進む感じだ』
「そうでしょ。ポールがあなたの力を引き出してくれているの」
小雨に濡れるのも忘れ、無我夢中で練習を繰り返した。
気付いたとき、そこに少女はいなかった。
雲間から射した光にアジサイの花が輝いていた。